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【デレマス2nd適当感想】アイドルマスターシンデレラガールズ第24話、時を超えて、愛をこめて、ずっと歌うよ!!

 

 

 愛ってなんだ? ためらわないことさ。

 24話、「S(mile)ING!」での島村卯月覚醒回でした。

 恐らく誰もが予想して、期待したものを乗り越えてきた。あるいは突き放し置き去りにするほどに走り切った。そんな内容になっていたと思います。

 これまでの物語の積み重ね、韻を踏む反復演出、童話モチーフと背景直喩、そして何よりTVアニメ版「アイドルマスター」との鏡合わせの関係性の全てを結実させた、まさに高雄監督以下スタッフ渾身の一話。ぶっちゃけ付いてこられない奴のことなんぞ知らん潔く死ね!! わかった気になった奴は潔く泣いて死ね!!――というくらい豪腕でワガママで圧倒的で、とてつもなく「アイドル」で「アイマス」な回だった。アイドルはなぁ、アイドルだからこそ、媚びたら終わりなんだよ!!

 

 今回、自分が考える重要なポイントは大まかに三つあって、

 

 

1・シンデレラプロジェクトと346プロの存在意義の再定義

2・Pとアイドルの関係についての再定義

3・S(mile)ING!の再定義による島村卯月の再発見

 

 このうち1は言うまでもなくこの物語において後半最大の懸案事項になっていた部分で、自分も何度か不安を書いてきたわけですが、そこに短いながら的確に答えに繋がる描写(答えそのものではない)を入れてきてくれたのは本当に嬉しかった。

 誰よりも卯月を応援しているのが小日向美穂であることの美しさといったら!!

 この辺り、たとえば「五十個の星」と1stOP「Star!!」でのCP寄せ書きとの対比の構図だとか、一つ前の記事で半分冗談のつもりで書いた「CP組の新曲の歌詞が実は卯月問題とリンクしてるんじゃないか」疑惑がどうもマジだったらしい演出だとか、幾らでも掘り下げがあるんですが、それは長くなるので後日に回します。

 2についてはシンデレラ単体よりはアイマス全体、またアニマスでの遣り残しにも関連する部分で、要するに「地下(奈落)に潜ってPとアイドルが結ばれかける」というアイドルもの最大のタブーに挑んでしまっている点。あのシーン、武内駿輔の芝居とPの作画がもうセクシーどころの騒ぎじゃない無茶苦茶な色気を発していてたまらないんですが、これも詳しく書き出すと終わらないのでまた後日に。

 なので今回は3に絞った記事になります。

 

・「愛をこめてずっと歌うよ」とは何か?

 

 まず、CDやデレステで配信されている島村卯月の「S(mile)ING!」とライブで大橋彩香が歌う「S(mile)ING!」は実は別物である、という大前提がある。

 聞けばわかりますが、原曲のS(mile)ING!ではラストの「愛をこめてずっと歌うよ」をそこまで伸ばさないんですね。歌い上げない。あくまで丁寧に生真面目に歌う。

 これはCDで初めて島村卯月にボイスがついた際、卯月のキャラが「ひたすらガンバリマスを連呼するごく普通の少女」でしかなかったからで、そのキャラを逸脱しないように歌も上手過ぎず等身大の女の子が精いっぱい教科書通りに歌っている感じを大事にしている。

 しかしその後、イベントでライブを繰り返すうちに大橋彩香の急激な進化がS(mile)ING!を変えていく。単純に歌唱力が怪物じみた速度で上がっていくのに加えて、同じ曲を繰り返し歌ったことで経験値が積み上がり原曲にはなかった色々な「お約束」が生まれてきた。

 たとえばカード絵を再現して笑顔でダブルピースする振り付け、観客とのコールアンドレスポンス、そして最後の「愛をこめてずっと歌うよ」を高らかに歌い上げるパフォーマンス。特にラストの歌い上げは大橋彩香の進化の目安みたいになっていて、歌えば歌うほどよくなっていく。だが、それは原曲の「島村卯月の初々しさ」からは徐々に離れていくことも意味していた。

 だから24話が放送されるまで、実質的にS(mile)ING!は二つに分裂していた。OFAやデレステでS(mile)ING!が配信されるたびに、ラストの「愛をこめてずっと歌うよ」がカットされていることを残念がる声が自分も含めて多かったのだが、それは仕方なかった。だって、島村卯月の「愛をこめてずっと歌うよ」は大橋彩香の「愛をこめてずっと歌うよ」には遠く及ばなくなってしまっていたから。

 余談だけどこの外の人と中の人の歌を通じての関係性、天海春香と中村繪里子の時とは真逆なのが興味深くもある。十周年での思い出語りで中村繪里子は頻繁に「私が歌えないせいで春香まで歌が上手くない設定になってしまった」ことを悔やむ発言をしていたので。

 

・時間は「もうない」のか、「まだあります」なのか

 

 ここで本編が「S(mile)ING!」に辿り着くまでの経緯を考えてみる。

 まず、そもそも何で不調の卯月がトップバッターでソロを歌わされているの? と疑問に思った人もいるかも知れませんが、これははっきりとPの仕業。セットリストをそう組んで卯月に送った。

 一見スパルタのようですが、ここでもし「たとえ失敗しても問題ないようなセトリ」、たとえば全体曲に参加するだけとか――を卯月に送っていたら、卯月はこれは自分なんて必要のないライブじゃないかと考えてしまう。

 だからセトリの時点で「このライブには絶対に島村卯月が必要なんです!!」と強烈に訴えるものになっていないといけない。それがトップバッター卯月。実際、真面目な卯月はこれは逃げたら迷惑かけるなと覚悟して事務所にきてくれた。

 

 しかしここで問題がある。準備の時間が一切ない。

 そして常務はひと目で、「この娘はまだ灰かぶりのままで復活していない」と見抜く。この人、トライアドの件でもわかるようにアイドルを見る目は確かなのでこれで何というか、勝ち誇っちゃうんですね。ほーらやっぱり私の言う通りだったー!! もう準備の時間もないしあの娘も復活してないし時間切れだよねー!! Pくんも諦めて私の言った通りにすればいいのにー!!

 ……という、あのハシャギぶり。可愛い。

 ついでにここで君の功績は惜しいとか言っちゃうのも、つまりは卯月が灰かぶり状態のままライブに出てイベントが台無しになってしまうことを一応心配している。

 で、Pに本気でキレられてビビる。ついに部長に怒られる。叱られて素直に一緒にライブ見に行く。絶対、子どもの頃部長に懐いてたんだろうなぁ……。

 ともかく、常務のツンデレ気質は置いといて「すでに時間切れ」なのは事実。あとはぶっつけ本番にかけるしかなくなっているのだが、ここでPは卯月に最後に魔法をかける。

 

 「時間はまだあります」と。

 

 これが嘘だったのかどうかは微妙なところで、ギリギリになっているのは間違いないが開演に間に合ってはいるので本当にPは限界まで見極めたのだろうと思われる。

 23話の記事で「Pの唯一の選択肢は時間切れまで粘ること」と書いたが、今回もまさにそれをしている。急ぎ過ぎる常務=かつての自分を必死で抑え、とにかく待つ、耐える、堪え忍ぶ。P道とは忍ぶことと見つけたり!!

 あと今回、時間への感覚を語るうえで非常に重要なのがCPメンバーがそれぞれに「あれから半年」を回顧するシーン。

 ここで、誰一人として「まだ半年しか経ってないんだね」と言わない!!

 視聴者としては普通、たった半年でデビューしてCD出してライブ何度もやってるのかと驚くところだと思うのだが、アイドル達にはそれが短い時間だったという感覚がない。これはアイドルに限らず大人と子ども、特に十代の少女の時間がどれほど濃密に流れているのかを端的に示していて感嘆させられた。

 これについては部活ものに当てはめて、

 

「希望の強豪校に補欠合格、入部して一学期の間は表舞台に出られずみっちり基礎練でしごかれて、夏の大会で先輩の凄さを目の当たりにしながら自分達でもちょっと手応えが出てきて、二学期から本格的に活動しようとした矢先に顧問が変わって部の方針で対立、冬の試合で結果を出さないと新顧問に従うしかなくなってしまう……」

 

 といった話が半年で展開されていると考えるとわかりやすい。

 実は青春部活ものならそんなに無理がない話で、そしてCPのアイドル達はまさにそういう感覚でいる。大人達や会社組織の時間と、彼女達の時間は違う。その時間の狭間で、じっと耐えるのがPの仕事。

 

・「裸足」としての「制服」

 

 Pと卯月の会話についてはまた今度として、自分の足で階段を上がる決意をした卯月は未だ恐怖に震えながらステージに向かう。何故か制服のまま。

 これは24話最大の仕掛けで、テーマ性や演出上の都合とは別にどうして制服のままステージに立つことにしたのか、その物語上の説明を敢えて省いている。

 敢えて省いている、と断言できるのはNGsの会話シーンでちゃんと説明する機会があるからで、そこに説明ゼリフを入れられるのに敢えて入れてない。

 

「なんか不思議な感じ」

「やっぱり変でしょうか?」

「ううん、しまむーらしいよ」

 

 この会話だけで済ませている。

 自分は最初、ギリギリ過ぎて衣装合わせの時間がなくなったとか、泣き過ぎてメイクができなかったとか、そういう不可抗力で制服のまま上がったのかと思っていたのだが、この会話のニュアンスを読むとそうではないっぽいんですね。少なくともNGsのいつもの衣装は当然卯月のぶんも用意されているはずだし、卯月だけを制服で送り出す必然性がない。

 つまりこの制服ライブは卯月の要望で行われた可能性が一番高い。後ろのPもその件でスタッフに急遽指示変更をしているのではないか?

 しかし、繰り返すが敢えてその説明がない。

 卯月が何を考えて、どんな決意で素のままの自分をステージ上に晒そうと思ったのか、それは誰にもわからない。秘密の場所に隠されてしまう。

 アイドルの本当に大切な気持ちは、誰にも教えない。アイマスっていつもそう。

 

 ちなみに、制服から学校バレするんじゃないのという心配はCPのキービジュアルポスター(リアルだとStar!!のジャケ絵)がそこらじゅうに貼ってある段階で今更。あれ社内限定なのかとも思ったが、そんなはずないよな……。そもそも346ほどの大企業なら出入りする人数も相当だろうし、2話で宣材撮影を制服でやった時点で学校側の許可は取っていて、それでも問題にならない程度の人気しか出ていなかったということだろうか。NOMAKEでトライアドの一般人気が沸騰し始めていることが明かされたが、やはりそういった拡散力では常務路線の方が強い。

 

・精神と時の部屋で特訓しよう!!

 

 そして始まる「S(mile)ING!」。ここで歌と現実とイメージ空間が交錯する(ついでにEDクレジットも交錯する)怒涛の情報量を込めたシーンに突入する。

 これはそもそも「情報と作画力で圧倒する」ことを目的としたシーンなので、理解が追いつかない、何がなんだかまったくわからない、わからないままに感動させられる!!……というのが、素直な見方。

 それでも一応解説を試みますが、はっきり言ってあまりにも濃いので現時点で細かく解説するのが非常に難しい。単純に考えると、「歌詞」と、「絵」と、「文字演出」と、「歌と音」にそれぞれ別個の意味がある。

 これ通常は「歌詞と絵と今までの物語が全て完璧にシンクロしている!! 凄い!!」という反応になると思いますが、自分の認識はちょっと違う。

 それぞれの意味は微妙にズレていたり、相互に補完していたり、逆に反発していたりする。

 

 たとえば文字演出だけを拾うと「自分らしい、お姫様に憧れる普通の女の子らしさを信じて笑っていこう」という意味にしかならないのだが、もちろん卯月はそんな単純に自分を割り切っているわけじゃない。

 

 作画だけ見ているとイメージ空間での「影デレラ」や鏡合わせの自分自身との特訓などはゲーム設定を引き込んでいるし、あの鏡の自分こそアニマス24話の天海春香をどう乗り越えるのかの答えにもなっている。

 春香さんは原点である子どもの頃の純粋な憧れを思い出して、それが765プロとの家族の絆に繋がっていくことを確信して復活した。しかし卯月の前に現れたのは「制服姿の今の自分」である。今、まさに現実で歌っている自分。現実で戦っている自分。

 制服卯月がジャージ卯月を励ますという構図は、動き出した「今」が停滞していた「過去」に働きかけるといった、因果関係が逆転した状態になっている。そして「未来」に向けて走り出したとしても、そこにいるのはやっぱり「今」の制服の自分。アイドルやお姫様に、キラキラした何かに突然なれるわけじゃない。

 ただその先にはPが言っていたみんながいる。自分への確信は何もないが、一人じゃないんだということだけは信じられる。「だから」信じよう、笑っていようという話になる。

 そしてイメージが1話の凛が見ていた光景の続きへと重なる。時間軸どころか視点も空間も超えていく。

 

 そして歌詞と絵の重ね合わせ。憧れてた場所いた小日向美穂は隣のダイヤモンドになっている。凛と未央も先に行ってしまった。けどスポットライトにダイブして、私らしさ光る声を出して、クヨクヨに今サヨナラをする!!

 ――ここで、卯月はすでに笑顔を取り戻しかけている。

 イメージ空間の方はここから特訓して星を掴んで走り出すので、現実の方がイメージよりも先行している。上記にある因果の逆転。

 これ、何を示しているかというと「歌い出すまで卯月にも整理がついていなかった問題が、自分自身のS(mile)ING!に導かれて未整理のまま溢れ出している」んだと思うんですよね。

 自分の歌に、自分で励まされている。

 普通の女の子がアイドルの歌に励まされて立ち直ったのだが、そのアイドルの正体は実は自分自身だったのだ!!……というパラドックス的な現象が起こっている。

 

 島村卯月は普通の女の子で、島村卯月はアイドル。

 

 この矛盾をS(mile)ING!を歌う僅か数分に凝縮して語っている。おもひでぽろぽろとか謎のシンガーとかアイカツシステムとかプリパラデータベースとかそういうの一切なしでやってる。やっていること自体はアイドルアニメとして決して珍しいわけではないんだけど、やり方がおかしい!!

 そして、島村卯月のなかからは時計の針が消える。時間の概念が消える。時計の針に縛られてきた歩みが自由になって公式サイトのキービジュがついにXIIを超える。

 何かもう、並べるほどに理屈としてはまったく理解できない領域に突入している。自分の可能性を信じられなくなった少女が迷った末に一歩踏み出すことを決意する、ぶっちゃけただそれだけの話にこの有り様だ!! それが、アイドルマスターシンデレラガールズだ!!

 

・そしてS(mile)ING!に「俺ら」はいるか?

 

 最後にS(mile)ING!が二つに分裂していた件に戻る。

 今回、新録音「Liveバージョン」として島村卯月と大橋彩香のS(mile)ING!はついに一つになった。恐ろしいことに大橋彩香は、新人時代の卯月の歌声を取り戻しつつ現在の自分のパフォーマンスを組み合わせる荒業を成し遂げている。

 しかしここで「Liveバージョン」を名乗るなら一つ足りないものがあるのです。

 それは観客のコール。「DIVE!!」とか「RISE!!」とか叫ぶやつ。実はここに今回隠されていた一番大事なテーマが浮かび上がってくる。

 まず、作中においてS(mile)ING!は他のソロ曲と同様すでにCDに収録され発売されている。これは2ndでずっと伏線になっていたことで、ここでそれが深い意味を持ってくる。

 CDは出ている。そして今回のライブはクリスマスイヴに急遽行われることになったNGsの単独ライブである。雪も降っているし、かなりの猛者が集まっていたと予想される。物販や会場の様子だとみんな作画班の優しさでライトめに描かれているが、サイリウムはほぼ全員が三色ばっちり用意していて、NGsが三人組でそれぞれピンク・青・黄色のイメージカラーであることも充分に浸透している。

 つまり観客のほとんどはS(mile)ING!の存在を知っている。推測になるが、楓さんの前座はともかく学祭でエボレボ一曲しか歌わないとは考えにくいので、小さな舞台ではすでに何度か歌ってもいるのではないか? ただ本格的なライブで披露されるのは今回が初めてで、だからこそ熱心なファンは集まったのだろう。生でソロ曲が聞けるんじゃないか、渋谷凛は最近トライアドで忙しくなってきたからこれを逃したらもうネバネバ聞けないんじゃないか。最近346プロ内部がゴタゴタしてるみたいだしこのチャンスは逃せない、と。

 だがその観客達が、制服卯月に戸惑ってリウムの色を揃えられない。一方でCPメンバー&小日向ちゃんは完全卯月応援モードでピンクリウム複数本持ち!! 津田美波は「ろこどる」でも果敢にリウム振ってたしな。

 そしてS(mile)ING!が始まって……コールが出ない!!

 

 これには二つの意味がある。まずS(mile)ING!がほぼ初披露なのでコールをする発想がなかった。あったとしても揃っていなかった。

 そしてもう一つには、S(mile)ING!のコールは無茶苦茶難易度が高いのだ!! シンデレラ曲のなかではトップクラスに難しい。他の曲は何となくフッフー言ってれば格好がつくのに対して、S(mile)ING!は歌詞を完璧に暗記して混合しやすい「RISE!!」とか「LIVE!!」とかを言い間違えずに叫ばなければならない。それこそ大橋彩香がそうしてきたように、観客と一緒に経験値を溜めていかなければ完成しない。それが「S(mile)ING! Liveバージョン」。

 これは同じく新録でLiveバージョンが作られた城ヶ崎美嘉の「TOKIMEKIエスカレート」と比較するととてもわかりやすい。TOKIMEKIはむしろ、佳村はるかよりも城ヶ崎美嘉の方が経験値が上なのでLiveバージョンもリアルライブより曲の方がコールの完成度が高い。先週放送された「Road to Live」の代々木TOKIMEKI、よく聞くと「M」の当たりがまだちゃんと揃ってないんだよね……。

 なので、今回のS(mile)ING!はLiveバージョンを謳いながらコールが入っていない。ただ、ゲーム内で試聴できるものを聞くと微妙~に、コール入ってる感じもするので実は勇者が単独でコールしているのかも知れない(CDだとコールが大きくなっている可能性もある)。ただ、はっきりみんなで一緒に盛り上がる曲にはまだなっていないということだとは思う。

 だからこそ。

 

「愛をこめてずっと歌うよーっ!!!!」

 

 直後の、「うわぁぁぁぁぁおおぉぉおぉぉぉぉっ!!!???」が大切なのだ!!

 あの歓声!! 覚えがある、たぶんCD聞いてからライブのS(mile)ING!を聞いた人は一度はあのどよめきを味わっている。

 CDと全然違うぞ!?

 何だこのパフォーマンスは!? 何だこの娘は!? こんな娘いたのか!?

 あの、へごへごしていた娘がこんな歌を!? 

 その驚きこそがS(mile)ING!。S(mile)ING!が本当の意味で大橋彩香から島村卯月に再び手渡されるには、「愛をこめてずっと歌うよ」だけが必要だったのではない。

 そのあとの、「うわぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」こそが必要だった。

 島村卯月の性格からして、そして最初のCD音源からして、今まで卯月はあんな歌い方をしたことはなかったはず。初めての歌。初めての自分自身の歌。

 それを聞いて、観客がどよめく。オール常務状態!! その瞬間こそが24話の真のクライマックスであり、この物語が今までかけて描いてきたもの。

 会場はすっかりピンク色に染まっていて、そこでようやく卯月は観客の熱狂に気付く。恐らく「愛をこめてずっと歌うよ」までは、卯月にとって観客は恐怖の対象でしかなかった。それが、愛をこめて歌ったら世界は変わっていた。

 

「ありがとうございましたぁーっ!!」

 

 視聴だと、歓声のあとに「ありがとうございました」があって、そこから更に「えへへ、ありがとうっ!!」と言って「S(mile)ING! Liveバージョン」は終わる。

 試聴でこのラスト部分を持ってきたのは英断。つまりこの曲は「愛をこめてずっと歌うよ」では終わらない。「ありがとう」まで含めて一つの歌になっている。

 

 愛ってなんだ? わからない。

 島村卯月は空っぽだったのか? それとも何かキラキラしたものを持っていたのか?

 わからない。そんなことはまだまだ全然わからない。

 だからこれからも「DIVE!!」とか「RISE!!」とか叫ばなきゃいけない。愛をこめて、ずっと。