へたブロ~下手の考え休むに似たるのはてブロ~

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ゲド戦記

ゲド戦記 [DVD]
監督:宮崎吾朗による世界三大ファンタジーの一つに数えられる
原作の劇場アニメ化・・・などという解説は今更不要なほどに、
とにかく公開前も公開後も悪い意味で話題騒然だった作品。
あまりにも世間の評判が悪いので、あまりそういうことは意識せず
素直な気持ちで観ようと心掛けていたのだが・・・。
とりあえず、前半の一時間くらいは個人的にはわりと面白かった。
確かに淡々と進み過ぎてはいるのだがそれはこの物語には合っているし、
たとえ「シュナの旅」っぽいとしても途中の奴隷市や麻薬中毒者の描写は
既存のジブリ映画が決して踏み込まない領域に迫っていて、
監督以下スタッフの覚悟が充分に感じられるものだった。
オリジナル要素であるアレンの父殺しも現代的なテーマを取り込むうえでは
効果的だったように思う。アレンが自分の影に怯えたり
凶暴性を抑えきれずに暴走したりといった中学生な感覚も
良い意味で少年マンガ的で、この時点ではわかりやすい。
テルーの物凄いツンデレぶりとか直球気味なハイタカの説教とか、
この時点では本当に話もテーマも呑み込みやすい。
それが・・・後半に入ると前半では好意的に受け止められていた
淡々とした演出や直球なテーマ語りが完全に機能不全に陥って、
作品そのものを空中分解寸前にまで追い込んでしまう。
これ要するに、全体のメリハリや尺の分配といった
基本的な映画構成の技術・・・というか皮膚感覚に欠けているんだろうなー。
前半でこうきたら後半ではこうしないと観客は納得しないという
空気がまったく読めてないで、そのまま前フリ芸を続けてしまっているというか。
素人監督なんだから当然といえば当然なのだが、
誰がもうちょっと他にコントロールつけてあげられる人はいなかったのか?
無駄に丁寧過ぎる移動シーンをカットするだけで、
後半の印象はだいぶ変わったはずだと思うんだけど・・・。
アレンの影が実は真実の光だったという設定や、
唐突過ぎるテルーのドラゴン化など説明不足な展開も多く、
本当に後半のこの破綻ぶりは残念でならない。
そのうえ無理に父親に似せたアクションを入れて空回りしたりと
自爆気味な演出も目立っていて、これだけの大型企画を任されて
色々と期待されて求められて限界までどうにかしようと頑張って、
それでもやっぱり駄目でした・・・といった裏事情が
透けて見えてきてしまうのがまた痛々しい・・・。
ただ、作品としては確かに失敗はしているものの、
細部に光るところは結構あって切って捨てる気にはとてもなれない。
監督の中には宮崎駿テイストと押井守テイストが同居していて、
今回はそのバランスが致命的に狂ってしまったわけだけど、
それを両立させる可能性について諦めるのは勿体ないんじゃないかと・・・。
祭の神輿に乗せられながら大風呂敷を広げるのではなく、
もっと小さく固めたタイプの作品を観てみたいなぁ。
とはいえ、そんな機会があるとも思えないか・・・。